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ノイエ銀英伝9話感想・考察その2「疲弊する帝国・同盟とフェザーンの台頭」

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9話「それぞれの星」
~ヤンとグリーンヒル、ルビンスキーとドミニク~

統合作戦本部から戻る途中、ヤン・ウェンリーはシェーンコップ大佐と行き会う。シェーンコップはヤンが退役できなかったことを知り、「あなたには軍に残ってほしい。あなたのもとでなら生き残れるだろうから」と告げた。

仕事を終えたヤンは、ユリアンと約束していた外食に向かう。目当ての店はあいにく満席だったが、フレデリカ・グリーンヒル中尉と彼女の父・統合作戦本部次長ドワイト・グリーンヒル大将から相席を勧められる。グリーンヒル大将はユリアンのことも知っており、ヤンは自分の養子が知らないうちに「有名人」になっていることを知った。

イゼルローン陥落後の同盟の事情について、グリーンヒルは「主戦論と反戦論の対立が激化している」と話す。ヤンは「議論をするのなら良いが、反対派に対して過激な手段を取るものもいる」と、自分を狙った憂国騎士団の名前を挙げた。

一方、フェザーン自治領では自治領主アドリアン・ルビンスキーが部下のニコラス・ボルテックから業務報告を受けていた。傍らには愛人のドミニク・サン・ピエールがいる。ルビンスキーは「宇宙を支配するのは経済力である」と語り、お金の力で帝国・同盟両国を支配できると語った。ドミニクも彼の意見に賛同したが「第二のルドルフが現れて新銀河帝国でもできない限りは」と付け加える。

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将来的にもヤンが軍を辞めるのは難しい状況に

「イゼルローンを攻略したら軍を辞める」と語っていたヤンでしたが、シトレ元帥から実質的な引き止めに会い、結果として軍を辞められない状況に追い込まれてしまいました。特に「君が去ったら第十三艦隊の部下たちはどうなる」という問いかけが決め手になったと考えられます。

直後、ヤンはその「部下」の一人であるシェーンコップとエレベーターの中でたまたま鉢合わせになりました。自分がいなくなった後の部下たちが心配で軍に残ったヤンでしたが、シェーンコップの前ではそうした素振りは一斉みせません。

ヤンは口先でこそ「辞表を出しにきたが、素直にシトレが辞めさせてくれるとは思っていなかった」と語っていましたが、これは半分は本当で半分は嘘でしょう。おそらくは、シトレが自分を引き止めてくること自体は想定していたものの、それを振り切って辞めるつもりだったと考えられます。家を出る前にユリアンを外食に誘っているのがその証拠です。本当は無事に軍を退職して、ささやかなお祝いをするつもりだったのでしょう。

シェーンコップから「あなたの元でなら生き残れそうだから、自分としては軍に残ってほしい」と告げられ、ヤンは部下からも自分が期待されていることを再確認します。これでたとえ多少状況が変わったとしても、帝国と同盟の戦いが続く限りヤンが軍を辞めることは難しくなってしまいました。

保護者なのにユリアンの活躍を知らなかったヤン

ヤンとユリアンは偶然の出会いから、グリーンヒル父子と夕食を同席することになりました。劇中では描かれていませんが、ここでフレデリカとユリアンがすでに知り合いになっていることがわかります。グリーンヒル大将もユリアンのことを知っているのに、保護者であるヤンは彼の学校での活躍にまったく気がついていないのが印象的です。いかにヤンが自分の興味のない世間での出来事に無頓着であるかを表していると言えるでしょう。

ユリアンとヤンの関係は決して悪くはありません。むしろ、実の親子でもないのに心は十分通じ合っています。従って、ユリアンの実績をヤンが知らないのは、2人のどちらもがあえて家庭内でそういった会話をしないことを表していると言えるでしょう。ユリアンはおそらく謙遜、もしくは遠慮から、ヤンの方は元来の無頓着な性格が理由になっているはずです。

ヤンとグリーンヒルの認識が決定的に異なる点

4人の会話はイゼルローンを落としたヤンの働きから、同盟の現状についての話に及びました。グリーンヒル自身は主戦論と反戦論、そのどちらに与する態度も見せていません。少なくともこの時点においては政治思想的には中立、もしくは軍人としての立場を考慮して政治的な対立にはかかわらない態度を保っているといえます。ヤンもこうしたグリーンヒルの姿勢に対しては、悪からず思っていたはずです。

しかし、2人には決定的に認識が異なっている点がありました。それは憂国騎士団を始めとした反対勢力への実力行使も問わない「過激派」への考え方です。グリーンヒルは憂国騎士団を「ピエロ」に例えるなど、彼らの動きを過小評価しているフシが見られますが、ヤンはユリアンとともに心身に危険が伴う実害を被っています。過激派への危機感の強さという点においてグリーンヒルとヤンとでは意識の差が明確に異なっていると言えるでしょう。この違いが後にどのような形で現れることになるのか注目です。

帝国・同盟を経済的に支配するフェザーン

最後に、フェザーンでの出来事について見ていきましょう。自治領主アドリアン・ルビンスキーは、愛人ドミニクの家で部下であるニコラス・ボルテックの報告を聞いていました。愛人宅で仕事の打ち合わせをしているわけですから、ルビンスキーがドミニクを信頼していること、ドミニクが彼の仕事の話を理解できる程度に聡明な女性であることが伺えます。

ルビンスキーとボルテックの会話からは、フェザーンがどのようにしてその影響力を拡大しようとしているのかが浮き彫りにされました。名義を分割、偽装して帝国・同盟両国のビジネスプロジェクトにさまざまな形で資本参加することで、両国を影から経済的に支配しようというのです。

9話までの流れの中で、度重なる戦争の結果、帝国・同盟両国ともに社会が疲弊している姿が描かれてきました。ルビンスキーによれば、フェザーンは両国の戦時国債の半分を所有しているため、戦いが続けば続くほど両国への影響力と、経済的な利益を高めることができます。ルビンスキーもこの構造に自身を持っているようで、「宇宙は人類の足跡あるところ、すべてこのフェザーンが経済的に統治する」と意気込みを語っていました。

ルビンスキーとドミニクの複雑な関係

しかし、ここでドミニクが「第二のルドルフでも現れない限りは(うまくいくだろう)」と釘を差しています。つまり、ルドルフのような絶対者が誕生し、帝国と同盟がひとつの勢力に統合されてしまえば、フェザーンが利益を得ることは難しくなってしまうだろうというのです。ルビンスキーは彼女のこの意見を「面白い」と評しています。おそらく、ルビンスキーが彼女を愛人にしているのは、外見的な美しさや性格的な部分に惹かれたからだけでなく、こうした「自分には思いつかなかった発想をする」という点に面白さを感じているからではないでしょうか。

ルビンスキーとドミニクの関係は、「権力者が愛人を侍らせる」というわかりやすいものではありません。仕事の報告を終える前、ボルテックは自分の上司が愛人と一緒にいることを察し「今日は官邸にはお戻りになりませんね?」と確認をとります。しかし、ルビンスキーはドミニクが外出の準備を整えているのを見て「いや、戻る」と応えています。男が女を侍らせる支配的な関係であるなら、自分が訪ねてきているのに外出させるような真似はしないでしょう。

実際、ルビンスキーはドミニクが部屋を後にする際「仕事に行くのか?」と質問しています。つまり、自分の愛人がどこに行くのか直前まで知らなかったわけです。ドミニクも「自由を売った覚えはない」と応えているので、この解釈は正しいと考えられます。

宇宙の三大勢力のひとつを支配し、残る2つの勢力も影から支配しようと目論むルビンスキーが、女ひとりをコントロールできないというのは不思議だと思われるかもしれません。しかし、ルビンスキーも完全に自分の自由にはならず、自分にはない発想を与えてくれるという点を気に入ってあえてドミニクをそばにおいているのでしょう。ルビンスキーとドミニクの関係性は一言で言えるようなシンプルなものではありませんが、それだけに2人のキャラクター像をより深く掘り下げてくれる設定だといえます。