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ノイエ銀英伝9話感想・考察その1「同盟の政治家が無能になった理由」

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9話「それぞれの星」
~同盟がかかえる社会問題~

ヤンの旧友ジャン・ロベール・ラップの婚約者であったジェシカ・エドワーズは音楽教師を退職し、3人が出会った思い出の場所である図書館の屋上を訪れていた。その後、ジェシカはやんを尋ねるが、彼はおらずユリアンと顔を合わせる。

舞台は変わって、自由惑星同盟最高評議会では財政委員長のジョアン・レベロが帝国との講和を主張していた。アスターテ会戦で戦死した将兵の遺族年金やイゼルローン攻略で捕虜にした50万人の帝国兵の存在が同盟の財政に負担を強いていたのである。その他の閣僚からは「専制政治に対する正義の戦争をやめていいものか」という反対の声も上がったが、国防委員長のヨブ・トリューニヒトは黙して語らなかった。

ヤン・ウェンリーは辞表を胸に、統合作戦本部長シドニー・シトレの元に赴く。しかし、帝国との講話を望むヤンの思惑とは逆に、最高評議会が帝国への進攻を計画していることを知る。創設されたばかりの第十三艦隊と、そこに属する自分の部下たちの前途を案じたヤンは辞めるに辞められない状況に追い込まれた。

一方、最高評議会では人的資源委員長ホアン・ルイが軍に人材が偏っている現状を批判。レベロもこれに同調し民力を休養するべきだと主張した。情報交通委員長コーネリア・ウィンザーは、帝国との戦いを「崇高な義務」と表現し、犠牲を強いてでも継続すべきだと述べて議論は紛糾する。

ここで最高評議会議長ロイヤル・サンフォードは思わぬ提案を行った。現内閣の支持率が低迷しており次の選挙での勝利が危ういこと、今後100日以内に帝国に対して画期的な勝利を納めれば、支持率の回復が望めることを理由に、暗に軍から提出された帝国領進攻作戦への賛同を求めたのである。

レベロは強く反対したが、投票は8対3の賛成多数で押し切られ、帝国領への進攻が決定された。レベロとルイのほかに反対に回ったのはトリューニヒトのみであった。

世界史のなかの産業革命―資源・人的資本・グローバル経済―

ジェシカとユリアンの出会い

ノイエ銀英伝の9話は、ジェシカとユリアンの出会いからスタートします。時系列的に考えて、5話でヤンと再開し、空港に送り届けられてからしばらくあとのことだと思われます。ヤンを訪ねてくる前、ジェシカは音楽教師をやめているため、なにか今後の人生にかかわる大きな決断をしようとしているのでしょう。彼女が何をしようとしているのかは、後半で明らかにされていきます。

帝国同様、長年の戦いで疲弊する同盟

8話では、帝国軍三長官や国務尚書兼宰相代理のリヒテンラーデが登場するなど、帝国側の政治・軍事のトップが描かれていました。今回は逆に、自由惑星同盟側の内政事情が描かれます。

100年以上に渡って戦い続けてきた結果、同盟の社会も大きな歪みを抱えていました。遺族年金や捕虜の存在が経済的な負担として国民の上に重くのしかかっていたのです。帝国のように飢えた民衆が路上に座り込んでいるような描写こそないものの、そうした負担がもはや無視できないレベルにまで広がりつつある様子が伺えます。

しかし、こうした現実を直視している政治家はジョアン・レベロなどごく僅かです。多くの政治家は「専制政治に対抗する」という同盟建国の理念に引きずられ、講和という選択肢を選ぶことができません。帝国のように権力を世襲できるわけではないはずなのに、なぜこのように無能な政治家ばかりが生まれることになってしまったのでしょうか?その答えは、このあとのシーンで明らかにされていきます。

仲間のために退職をためらったヤン

イゼルローン攻略を成し遂げたヤン・ウェンリーは、当初の望み通り軍をやめようと上司であるシトレのもとに赴きました。シトレはあれこれ表現を変えながら、巧みにヤンを遺留しようと試みます。決して「辞めないでくれ」と言わないのがシトレのうまいところです。

「軍は用兵家としてのヤンを求めている」、「最高評議会は帝国への侵攻を企てている」という話には動じなかったヤンですが、唯一「第十三艦隊の部下たち」に話が及んだときには真面目な表情を浮かべていました。

もし、最高評議会が帝国への進攻を決断したら、第十三艦隊は間違いなく駆り出されることになります。指揮を執るのがヤン以外の人間では、戦いに敗れ大きな被害が生まれてしまうかもしれません。第一、第十三艦隊の幕僚たちはヤンが自ら選び、集めた人材です。彼らを艦隊に残したまま自分だけ軍を去るのは考えようによっては無責任な態度だと言えるかもしれません。結局、ヤンの退職は先延ばしにされることになりました。

上から下まで「最低レベル」に低下した人材の質

ホワン・ルイは「人的資源」という新たな観点から軍部への偏重が加速していく同盟の現状に警鐘を鳴らしました。民間から軍に優れた人材が徴用されてしまうことで、民間の人的資源が不足してしまい、結果として社会運営に支障をきたすようになるというのです。

一見、この意見は純粋に「軍と民間の人的資源」を比較した発言のように聞こえます。しかし、実際には社会機構の上層、つまり議会や軍の上層部も同じ問題を抱えているのではないでしょうか?

ノイエ銀英伝に描かれる宇宙を舞台にした大規模な戦いでは、多くの命が犠牲になります。たとえ失ったのと同じだけの人員を補充したとしても、質も同じレベルに保てるとは限りません。むしろ多くの場合、組織全体としての人材の質は低下してしまうでしょう。

ましてや、同盟は150年もの間帝国と戦いを続けています。優秀な人間は軍に入るか、徴用されて後方勤務を任されるという体制をそれだけの長期間に渡って続けていたわけです。社会全体の標準的な人材の質は、戦いを続ければ続けるほど低下し続けていったことでしょう。結果的に、一般の軍人や民衆はもちろんのこと、軍の上層部や政治家に至るまであらゆる人材の質が過去最低レベルにまで低下していると考えられます。

このような状況では、ウィンザーやサンフォードのような利己的な政治家が権力を握ってしまったとしても無理はありません。もちろん、彼らを選出した同盟の国民にも責任はあるのですが「選ぶ側」も「選ばれる側」も過去の同盟の歴史上、最低レベルにまで人材の質が低下しているわけですから、やむを得ないと考えることもできます。

同盟が抱えるこうした社会の構造的な問題は、ある意味帝国より根深いと言えるかもしれません。