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ジャガーマンシリーズ進化の歴史と人々の心を捉えた理由

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動画共有サイトとして知られるニコニコ動画には、魅力的なコンテンツが多数存在します。ひとつひとつの作品に異なる面白さが隠されているのはもちろんですが、動画にコメントを残すことができるため、ユーザー同士の交流が可能なコミュニティに近い特性があるサイトだと言えるかもしれません。ときには、特定の作品がきっかけとなり、大きなムーブメントが生まれることもあります。今回は、そのような事例のひとつとして「ジャガーマンシリーズ」をご紹介しましょう。

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ジャガーマンとは

「ジャガーマンシリーズ」について説明するためには、まずその発端となった作品である「ジャガーマン」について説明しなければなりません。ジャガーマンは2017年9月2日に投稿されたけものフレンズのMAD動画です。主に次のような特徴を持っています。

けものフレンズの「ジャガー」 × デビルマンOPのMAD

ジャガーマンは、けものフレンズに登場するキャラクター「ジャガー」を、デビルマンのOPテーマ曲「デビルマンのうた」に合わせて紹介するという構成です。ジャガーは決してメインキャラクターというわけではなく、数いる脇役のひとりに過ぎません。また、デビルマンも1970年代に放送された昔の作品です。1つ目の特徴として、あまり有名ではないキャラクターに古い作品の楽曲を合わせているところが挙げられます。

ただし、けものフレンズという作品自体は2017年に大きな話題となった作品であり、その知名度は抜群です。同じくデビルマンもテレビの「懐かしアニメ特集」などで取り上げられることも多く、若い世代への認知度も決して低くはありません。レトロアニメのOPでお馴染みの、番組タイトルを繰り返す歌詞は多くの人々の印象に残っていることでしょう。

シンプルな編集技術のみで作られている

この作品が作られた2017年には、動画共有サイトや動画編集ソフトは広く一般的に普及していましたが、あえてレトロな演出が取られていたため、1990年代末~2000年ごろにかけて作られた「Flash動画」に近い雰囲気を持っているという声もあります。

FLASH黄金時代とは、Webアニメーション黎明期から動画共有サイトの台頭までの期間、人気を博した動画を収録するタグである。 概要 Youtube、ニコニコ動画が流行を見せる前、一世を風...

作中で使われている編集技術について、ニコニコ大百科「ジャガーマンシリーズ」の項目には以下のような記述があります。

雑な音声継ぎ接ぎを主とするので、音MADのように音楽の上に台詞を被せて同時に鳴らしたり、音楽に合わせてセリフのタイムストレッチやピッチ変更といった加工がされたりは“たまにある”程度。音MADではなくあくまでネタMADである。映像面に関しても、「カット編集」「(主にサムネ用の)ズーム」「ピクチャインピクチャ」「テロップ挿入」といった超初歩的な編集技術さえあればOKである。

ジャガーマンシリーズとは、アニメ『けものフレンズ』に登場するキャラクターのジャガーを題材にしたMADのシリーズのことやんか(周知の事実) (ウィー)ジャ概要 (サムネの)顔がデカくて、曲...

このように、2017年時点においては「比較的簡単な編集技術で作成できる」という点が2つ目の特徴です。

動画の趣旨が曲の途中で変わってしまう

3つ目の特徴は動画のストーリーの中に隠されています。楽曲とアニメの映像を組み合わせる手法は、MAD作品の中では珍しくありません。本作がその中でも斬新だったのは「途中で動画の趣旨が変わる」という点です。

ジャガーマンは子どもが遊びで作る替え歌のように、「デビルマンのうた」の歌詞を「けものフレンズのジャガー」に関連した内容に置き換えながら進行していきます。ところが、途中で特定のシーンに差し掛かると、いきなり「あー ここすき」と、急に「作者の感想」に歌詞の内容が置き換わるのです。この要素を含んでいることから、ジャガーマンを始めとする「ジャガーマンシリーズ」の動画はその多くが「日記」カテゴリに含まれています。

「ジャガーマンシリーズ」の誕生

ジャガーマンは投稿以来、多くの人に閲覧されました。人気作品のけものフレンズを題材とし、デビルマンという知っている人の多い楽曲を使用したからという理由もあるでしょうが、それ以上に「途中で好きなシーンの紹介が始まる」という斬新な展開が人々の心をひきつけたのではないでしょうか。

その後、多くの動画製作者がジャガーマンを模倣した動画を制作するようになり、今日ではそれらの動画は「ジャガーマンシリーズ」という名前で呼ばれています。「ジャガーマン」に使われていた動画編集技術が簡単なものであった点も、参入を容易にする一因になったと思われます。

ジャガーマンシリーズの分類

ジャガーマンシリーズは動画の内容によっていくつかの下位分類に分けることができます。

【大分類】

(広義の)ジャガーマンシリーズ

【小分類】

  • (狭義の)ジャガーマンシリーズ
  • ジャガーマンシリーズ外伝
  • ジャガーマンシリーズシリーズ
  • ジャガーマンシリーズシリーズ外伝

(狭義の)ジャガーマンシリーズ

「けものフレンズのジャガー × 何らかの楽曲」というオリジナルのジャガーマンの動画フォーマットを比較的忠実に守っている動画群です。けものフレンズ本編の映像をアニメやゲームの映像と合わせ、手書き素材が使われる場合もあります。

ジャガーマンシリーズ外伝

「(狭義の)ジャガーマンシリーズに含められるほどではないものの、一部にジャガーマンシリーズの要素を含んでいる動画」、あるいは「(狭義の)ジャガーマンシリーズから派生した動画」を指す言葉です。「ジャガーマンシリーズの要素」の例としては次のようなものが挙げられます。

ジャガーマンシリーズに登場するキャラクター

デビルマン、キャシャーン、タイガーマスク、ワイトなど。

ジャガーマンシリーズに使われる素材

けものフレンズアニメ本編のうち、ジャガーマンシリーズでよく使われる音声・映像。ジャガーマンシリーズで使われる手書き素材など。

ジャガーマンシリーズに使われる演出

好きなシーンを「ここすき」と紹介するなど。

ジャガーマンシリーズシリーズ

ジャガーマンのフォーマットを踏襲しつつ、題材となるキャラクターをジャガー以外のけものフレンズキャラに変更したものです。「けものフレンズキャラ × デビルマンのうた」という形で、自分のお気に入りのキャラクターの良さを紹介する内容になります。

ジャガーマンシリーズシリーズ外伝

ジャガーマンシリーズシリーズが「けものフレンズのキャラ紹介」に限定されているのに対して、こちらはけものフレンズ以外の作品に登場するキャラクターも対象に含まれています。一般的な構成は「好きな作品のキャラクター × デビルマンのうた」という構成が多いものの、キャラクター同様、使用される楽曲は限定されません。

ニコニコ動画上では、動画に付けられる検索用のタグによって作品がそれぞれの対応するカテゴリに分類されています。より詳細な分類方法については下記の記事で詳しく紹介されているので、興味がある方は参照してください。

ジャガーマンシリーズシリーズ外伝とは、ジャガーマンシリーズの派生タグ及び動画群である。 略称はJMSS外伝。 概要 ジャガーマンシリーズの派生動画のうち、「けものフレンズ」を題材にしていな...

「ジャガーマンシリーズシリーズ」、「ジャガーマンシリーズシリーズ外伝」はその特性上、ほとんどすべての作品が「ジャガーマンシリーズの要素」を少なからず含んでいます。そのため、実際には「ジャガーマンシリーズ外伝 ジャガーマンシリーズシリーズ」というふうに複数のタグが動画に付けられるケースが多いようです。

ジャガーマンシリーズ変遷の歴史

ジャガーマンシリーズがどのように広まっていったのか、代表的な作品とともにその歴史をご紹介します。

「ジャガーマン」の誕生

最初に、原初の作品であるジャガーマン、及びその作者である千賀氏の作品群が投稿されました。

これらの作品は「けものフレンズのジャガー × 何らかの楽曲」というフォーマットに則っており、後にジャガーマンシリーズと呼ばれることになる動画の走りとなりました。2作目に当たる「ジャガーン」には、MAD用の手作り素材「千賀式ジャガー」が含まれており、すでに「ジャガーマン外伝」が誕生する萌芽が見られます。

(狭義の)ジャガーマンシリーズの拡大

ジャガーマンは内容がシンプルでありながらもセンスに溢れた内容で、多くの動画製作者の創作意欲を刺激しました。最初期に多く登場したのは、「けものフレンズのジャガー × 何らかの楽曲」という構成を忠実に守った(狭義の)ジャガーマンシリーズの作品群です。これらの作品にはジャガーマンと同一のサムネイルが使用されることが多く、一時期は腕を掲げたジャガーの動画でニコニコ動画の日記カテゴリランキングが占領される事態となりました。

「ジャガーマン外伝」の増加による新たな素材の提供

ジャガーマンシリーズは、基本的にけものフレンズ本編の映像や音を素材として使用しているため、必然的に表現の幅が限定されてしまうという欠点を抱えていました。そこで、アプリ版のけものフレンズなど、関連する映像作品からMAD用の素材を抽出し、動画として配布する試みが広まっていきます。同時に、手書きで新たな素材を作成する人々も増えていきました。

純粋に素材配布を目的とした短時間の動画もあれば、それ自体が(狭義の)ジャガーマンシリーズのMADである作品も存在します。

ジャガーマンシリーズシリーズへの派生

新たな素材提供を受けたとはいえ、すでに放送が終了しているアニメ作品の1キャラクターを題材としているだけでは、自ずと表現のできることの範囲は限定されてしまいます。そこで、ある時期から取り上げるキャラクターをジャガーではなく、別のキャラクターに置き換えた「ジャガーマンシリーズシリーズ」が投稿されるようになりました。

新たに表現の枷となる部分がなくなったことにより、ジャガーマンシリーズは新たな局面を迎えることになります。

ジャガーマンシリーズシリーズでは、取り上げるキャラクターこそジャガー以外のものになったものの、相変わらず組み合わせる楽曲には「デビルマンのうた」が使用されていました。しかし、そのうちにキャシャーン、タイガーマスクなど、元祖ジャガーマンの作者である千賀氏が作成したほかのジャガーMADで使用された楽曲も取り入れられるようになっていきます。

これら新たな楽曲は、ジャガーマンシリーズ外伝によって提供されたMAD素材とともに、ジャガーマンシリーズの表現をさらに次の次元へと推し進めていく原動力となりました。

ジャガーマンシリーズシリーズ外伝の誕生

(狭義の)ジャガーマンシリーズは「ジャガー × 何らかの楽曲」という構成で、「けものフレンズのジャガーを題材としている」という点で元祖ジャガーマンとの共通点があります。

一方、ジャガーマンシリーズシリーズは「けものフレンズのキャラクター × デビルマンのうた」という構成でした。こちらは「けものフレンズという作品とデビルマンのうたを使っている」という点が元祖ジャガーマンとの共通点です。

ところが、ときとともにこの束縛は薄れ、次第にデビルマンのうた以外の楽曲も使用されるようになっていきました。ここにおいて、(狭義の)ジャガーマンとジャガーマンシリーズシリーズとの違いは曖昧になっていきます。もはや(広義の)ジャガーマンシリーズを縛る条件は「けものフレンズに関係するものを題材としている」という共通点しか残っていません。

しかし、この条件も「ジャガーマンシリーズ外伝」によって提供された多くの新素材によって徐々に曖昧になっていきます。アニメ本編以外からも新たな素材が提供されていったことによって、徐々にMADの内容とけものフレンズとの関係性が薄れていったのです。

こうした流れの延長線上から、ジャガーマンシリーズシリーズ外伝は登場します。ジャガーマンシリーズシリーズ外伝では、もはや取り上げるキャラクターはけものフレンズ関連のものに限定されません。薄れてしまった元祖ジャガーマンとの関連性を補強するためか、楽曲にはデビルマンのうたが用いられる場合が多いものの、ほかの楽曲が使用されることも多く、もはや「元祖ジャガーマンの模倣作品」というよりも「ジャガーマンシリーズという作品群が作り出した世界観・フォーマットを踏襲した作品」といえる存在です。

「アイドルマスター シンデレラガールズ」やバーチャルYoutuber(Vtuber)など、魅力的なキャラクターを大勢抱える作品を題材に、現在も多くのジャガーマンシリーズ作品が作られ続けています。

ジャガーマンシリーズの隆盛をどう解釈するべきか?

ここからは、なぜジャガーマンシリーズがこのような巨大カテゴリーに成長したのか、これらの作品群をどのように見るべきか考えてみます。

多くの人々の共感を生んだ「ここすき」という概念

ジャガーマンシリーズの動画が増えた理由として、わかりやすいのは「動画編集に高度な技術を必要としないこと」、「わかりやすいフォーマットが確立されていて、参入しやすいこと」などが挙げられます。しかし、それよりももっと本質的に重要なのは、「作品が伝えようとしているテーマが多くの人々にとって共感しやすいものだったからでしょう。そのテーマとは「自分の好きなキャラクター(作品)の好きなところを人々に伝える」という点です。

元祖ジャガーマンにおいては、ジャガーが主人公たちから協力を求められ、大変そうな表情を見せるものの断れない様子を描いたシーンが取り上げられています。このシーンに歌詞を改変した「ここすき」というセリフを合わせることによって、「楽曲に合わせて好きなキャラクターを紹介する動画」が、急に「自分の好きなシーンを紹介する動画」に変化するというのが本作品の面白いところです。

さらに、ダメ押しとばかりに遊戯王OCGのキャラクター「ワイト」を登場させ、「ワイトもそう思います」と同意させています。この演出によって、単に自分の主張をアピールするばかりでなく、見る人々に同意を提案しているわけです。

動画製作者の多くは、ネット文化やそれと相性のいいアニメ、漫画といったサブカルチャーにも造詣が深いと考えられます。当然、「自分の好きなもののいいところをもっと多くの人に知ってほしい」という意識を持っている人も少なくないでしょう。場合によっては、そうした感情が動画制作の主要な原動力になっている人もいるはずです。

「人々に自分の好きなものを紹介し、同意を迫る」という「ここすき」のフォーマットは、そうした人々に支持されたのではないでしょうか。

「自分の好きなものを広めたい」という想いが足かせを外した?

ジャガーマンシリーズが作られ始めたころ、多くの動画は元祖ジャガーマンが作ったフォーマットをできる限り踏襲していました。しかし、すでに見てきたようにそうした縛りは時間とともに徐々にゆるくなり、現在ではほとんど残されていません。

本来、MAD動画は特に縛りもなく、自由に作っていいはずです。それなのに多くの製作者があえてジャガーマンの縛りを受け入れていたのは、動画を見る人に「この動画は作者の『ここすき』を伝えたい作品である」ということを理解させたかったからではないかと思われます。ジャガーマンのフォーマットを踏襲している限り、見る人は「ジャガーマンシリーズの動画だ」という目線で見るため、自分の好きなものを同じように好きな視聴者が見に集まってくれると考えられるからです。

ですが、ジャガーマンシリーズにおいて本質的に重要なのは「ここすき」のフォーマットだけです。そのため、「ジャガーだけ」、「デビルマンのうただけ」といった余計な部分は徐々に削られていったのでしょう。

今日では元祖ジャガーマンを作成した千賀氏が作品中で使用したキャシャーンやタイガーマスクに加えて、R&B歌手のTSUYOSHI、俳優の大沢たかおまでもがジャガーマンシリーズに使われる動画の素材として認知されています。これらの要素は一部の動画製作者が使用していくうちに徐々に「ジャガーマンシリーズの一部」として認知されるようになっていったものであり、これらの事実からもジャガーマンシリーズがもはや独自の世界観を創り上げているということがわかります。

ジャガーマンシリーズの進化が示唆すること

SNSの登場が高めた「共感」の重要性

「ここすき」の概念は、SNSなどに備えてある「いいね」機能と非常に似通った部分があります。SNSの「いいね」機能は、主に既読の通知や内容に共感していることを示す意味で使われており、仮に不幸な出来事だったとしても投稿者への共感の意を示す目的で「いいね」が押される場合も少なくありません。SNSによって不特定多数の相手と意思疎通を図るのが用意になった今日において、「相手に共感する意思を示す行為」には極めて重要な意味があると言えます。

翻ってジャガーマンシリーズを見ると、元祖ジャガーマンに現れる「ワイトもそう思います」の言葉に代表されるように、投稿者の「ここすき」に視聴者が共感を示すことが重要な意味合いを持っていました。

後に登場したジャガーマンシリーズの作品では複数のキャラクターを同時に登場させ「どの子すき?ぼくはこの子」というように、視聴者に複数の選択肢の中から好きなキャラクターを選ばせるものも登場しています。

この手法はさらに洗練されていき、共感を得たいシーンに差し掛かると、デビルマンを改変したコラージュキャラ「わかるマン」がSEとともに登場する、という演出に発展しています。

共感を得るための演出がより目立つように進化していったのは、それだけこのシリーズにおいて視聴者の共感を集めることが重要だということを示唆していると言えるでしょう。

「ここすき・わかるマン」は新たな美意識となりうるか?

人間社会には、その時代によってさまざまな美意識が誕生してきました。不足している状態を美しいとする「わび」、寂しい状態を逆に美しいと捉える「さび」などの概念が有名です。

近年では、アニメや漫画などサブカル文化の中から、「特定のキャラクターや属性などに対するごく狭い範囲の深い感情」を指す「萌え」という言葉も誕生しています。

これらの美意識と「ここすき・わかるマン」を比較すると、対象となる範囲の狭さや感情の深さという点では「萌え」と共通する点が見られます。一方で「自身の感情への共感を他者に促す」という意味合いを含んでいるという部分が明確な相違点です。

「萌え」は自身の中に何らかの感情が生まれた時点で完結しますが、「ここすき・わかるマン」は何らかの行動を含めたより実践的な概念だと言えるでしょう。ここでいう「行動」とは、たとえば「SNSへの投稿」や「動画共有サイトへの動画投稿」といった他者への共感を他者に促すための行動を指します。

科学技術の発展によってSNSなど、「一個人が不特定多数に意見を主張する方法」が誕生し、それによって「他者からの共感」を重視するように人々の価値観が変化した・・・。

「ここすき・わかるマン」のような価値観が誕生した裏にはそのような背景があるのではないでしょうか。

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