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ノイエ銀英伝1話感想・考察その4「有能・無能の基準とヤン・ウェンリーの登場」

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第1話「永遠の夜の中で」より、今回取り上げるシーン

同盟軍第四艦隊を撃破したラインハルトは、次なる標的である第六艦隊に襲いかかる。同艦隊幕僚のラップ少佐は、帝国軍の攻撃を予測していたが、司令官のムーア中将が彼の意見を採用しなかったため、大きな損害を被ってしまう。ラインハルトは降伏を促したが、ムーアは拒否し第六艦隊も壊滅する。

最後に残った第二艦隊への攻撃も順調に進み、ラインハルトは勝利を確信。ところが、そこでキルヒアイスが「もし、敵にもあなたのような誰かがいれば」という可能性を口にする。「そんな人物がいたらぜひ会ってみたい」と語るラインハルトの元に、敵の通信を傍受したとの知らせが届く。

傍受した通信は、ヤン・ウェンリー准将から同盟軍全体に向けられたものだった。負傷したパエッタ総司令官から指揮を引き継いだヤンは「自分の命令に従えば負けはしない」と味方を鼓舞する。

戦いに決着をつけようと、ラインハルトは紡錘陣形を取り、敵の中央突破を開始する。帝国軍の勝利は間近かと思われたが、そのとき戦場にはラインハルトを驚愕させる変化が起きようとしていた。

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有能・無能の基準を示す材料にされたムーア中将

1話もいよいよクライマックスを迎えますが、ここで脇役たちの表情に注目してみましょう。同盟軍第六艦隊のムーア中将は、一貫して「無能な司令官」というふうに描かれています。彼を補佐するラップ少佐は、ラインハルトの策を看破していることからもわかるとおり、「優秀な参謀」という位置づけです。

ただし、ムーアは単純に知恵が足りない=馬鹿だから無能というふうに描写されているわけではありません。たとえば、帝国軍の攻撃に対して彼がどう対処しようとしたかを思い返して見ましょう。ラップ少佐は「時計方向に進路を変えながら全速前進し、逆に敵の後背につくべき」と進言しましたが、ムーアはその策を退け、艦隊を反転させて応戦する道を選びました。

このとき、ムーアは反転を選ぶ理由として、「(ラップの作戦では)敵の後背に付く前に味方の大半がやられてしまう」という点をあげています。つまり、「有利な位置を取るために味方を犠牲にする」という選択を渋ったわけです。逆にラップは「有利な位置を取らない限り戦いに負けてしまう。そのためには味方に犠牲が出てもやむを得ない」と考えていたのでしょう。

実際には、ラップの策が採用されていた場合、戦いの推移がどうなっていたかはわかりません。しかし、このシーンからはムーアが「卑怯な振る舞いを嫌う人物」であることがわかります。ラインハルトに降伏を勧められた際、「俺は無能であっても卑怯者にはなれん」と自ら語っていることからも明らかでしょう。「負けを認めて自分だけが助かるのは、先に犠牲になった味方に対して卑怯なふるまいになる」と判断し、降伏を拒否したのだと考えられます。

ムーアという人物に対する一連の描写は、単に1キャラクターの人物像を描いたものではなく、銀河英雄伝説という作品において「軍の指揮官に求められる資質とはなにか」を描いたものだと捉えたほうがいいでしょう。

第六艦隊を撃破した後、ラインハルトは「実力なきものは滅びるしかないのだ」と語っています。このとき、彼が言う「実力」とは具体的に何なのか、言葉で説明されることはありません。しかし、劇中の描写を見ていれば、「物事の優先順位を正しく判断できる」、「目的のためには、必要な犠牲を厭わず実行できる」といった点が「指揮官に求められる資質」として描かれていることは明らかです。

つまり、ムーアは理由もなく、単純に「馬鹿な軍人」として描写されているわけではなく、「銀河英雄伝説の作中における、有能・無能の定義」を説明する材料として扱われているといえるでしょう。

実はそれほど「老いてはいなかった」メルカッツ

もうひとり、注目すべき脇役にメルカッツが挙げられます。彼は最初の第四艦隊を撃破した時点で、ラインハルトの言うことを素直に聞く態度を見せていました。しかし、実際には心の底からラインハルトを認めていたわけではなかったということが、第六艦隊との戦いの中で明らかになります。

メルカッツは、第六艦隊への攻撃も成功したことを受けて「まぐれではなかったようだな」とラインハルトへの評価を改めました。つまり、この時点までは、「第四艦隊への攻撃がうまくいったのもたまたまなのではないか」と考えていたということです。

何しろ、彼はキルヒアイスによって敵データリンクへの通信妨害が行われていた事実を知りません。キルヒアイスの工作は作戦の成功に大きく寄与しており、メルカッツが事前にこのことを知っていたなら最初から「十分に勝算はある」と考えていた可能性もあるでしょう。

しかし、ラインハルトは部下たちに自分の実績をより大きく見せるため、あえてこの事実を伝えていませんでした。そのため、メルカッツは自分の戦術眼・戦略眼が鈍ったと錯覚し、「老兵は去るのみか」と弱音まで吐いています。戦局に大きな影響を与える重要な事実を知らなかったのですから、実際にはメルカッツがショックを受ける必要はないのですが、ラインハルトの策は十分すぎるほど彼の幕僚たちに影響を与えたと言えます。

「老兵は死なずただ去りゆくのみ」の意味は20世紀前半を中心に活躍した、アメリカ合衆国将軍のダグラス・マッカーサー(Douglas MacArthur)が1951年、アメリカ議会で軍人としての活動を引退する際のスピーチで述べた言葉のこと。Weblio辞書では「老兵は死なずただ去りゆくのみ」の意味や使い方、用例、類似表現な...

 ラインハルトと対比されるヤン・ウェンリー

最後に取り上げるのはもちろん、本作のもうひとりの主人公であるヤン・ウェンリーの登場です。第四・第六艦隊に続き、第二艦隊に対しても有利に戦いを進めていたラインハルトでしたが、ここでキルヒアイスが思わぬことを口にしました。

「ここにあなたがいるように、敵にも秀でた誰かがいたら」

完全に、「そういうキャラが今から出ますよ」というフラグにしか聞こえないセリフですが、ヤンは極めて重要なキャラクターなのでこれくらいわかりやすいフリがあった方が演出としては効果的でしょう。

ヤン・ウェンリーは、劣勢に立たされた同盟軍に向けて通信を行い、「我が軍は負けはしない。自分の命令に従えば勝てる」と伝えます。これはもちろん、不利な状況にある味方を鼓舞するためのセリフですが、ラインハルトにとってだけは違う意味を持つ言葉でした。

今回、ラインハルトは撤退を進言する部下たちに、「勝算はある。自分の命令に従えば勝てる」と語って戦いに赴いています。つまり、ヤンが全軍に対して語ったのとまったく同じことを自分自身が宣言して実行しようとしていたわけです。

キルヒアイスがこのシーンの直前「敵にもあなたのように秀でた人物がいたら」と発言しているのも、この場面の意味合いをより深いものにしています。つまり、物語上、「ヤン・ウェンリー」という人物は、

  • 主人公、ラインハルトに匹敵する「秀でた人物」であること
  • ラインハルトと同じ姿勢で戦いに臨んでいること

の2点が濃厚に示唆されているのです。

こうしたヤン・ウェンリーについての一連のほのめかしは、視聴者に対して向けられたものであるのと同時に、主人公であるラインハルトに向けられたものでもあります。なぜなら、以上のような事実は、劇中にいるラインハルト自身、わかることだからです。

以上のような演出は、ストーリー上は作為的に組み込まれたものですが、登場人物であるラインハルトにとっては奇妙な偶然に過ぎません。従って、少しは気にする素振りを見せるものの、すぐに普段と同じ表情に戻り、決着に向けて戦いを進めていきました。

1話のラストは、帽子をかぶり直すヤン・ウェンリーの後ろ姿で締めくくられます。これだけ印象的な演出を繰り返した人物を正面から描かず、声と後ろ姿だけを映して次回に続けるというのは、第1話としては最高の引きではないでしょうか。

コメント

  1. 前図書頭 より:

    こんにちは。
    銀英伝は考察が出来るという点が楽しいですよね。

    まず、重箱の隅をつついてしまって申し訳ないですが、誤記を指摘させてください。

    >実際には、ラップの策が採用されていた場合、戦いの推移がどうなっていたかはわかりません。しかし、このシーンからはラップが

    「このシーンからはムーアが」が正しいかと思います。

    次に、私見なんですが。
    私はムーア提督が用兵上間違えていると思えないのです。
    御存知の通り、帝国軍はムーア艦隊の後背を衝いています。という事は、帝国軍はムーア艦隊より速度が出ています。後方から追いついているので。
    ここで、ムーア艦隊が加速をかけて全力で前進しても、帝国軍も同様に加速をかけますから、今の距離が縮まる事は無いでしょう。
    つまり、ムーア艦隊は砲戦距離で背後を取られたままで全速前進を強いられます。当然、どんどん損害が増えるでしょう。結果は全滅です。

    一方、急速反転ならば、転舵の間は敵にさらす面積が最大化し損害は極大化しますが、そこを耐えればバリアに出力を振り向けつつ、相対距離を詰めて艦載機によるドックファイトに持込めます。
    うまく行けば、混戦に持込み、パエッタ艦隊の来援まで戦場を混沌状態で維持できるかも知れません。パエッタ提督は必ず味方救援のために進撃中でしょう。ヤン准将が邪魔するかも知れませんがw

    ・・・・と。
    つい、定説と反対を主張したくなるアスターテ会戦です。

    • コンテンツの魅どころ より:

      前図書頭さん

      ご指摘の箇所は修正しました。

      ムーア提督の用兵についてですが、お話のようなことを考慮した上だとすると、日露戦争時の日本海海戦で知られる「丁字戦法」を彷彿とさせますね。

      ・丁字型に包囲するように敵艦隊の先頭を遮る必要があるが、実際には敵艦隊も動いているため、敵艦隊よりも速度を上げて「丁」というより「イ」の字のように包囲をかける。
      ・敵に狙いを悟られないよう、敵前で回頭し方位を行うが、そのタイミングで無防備になってしまう(東郷ターン)

      「自艦隊が動いている最中、敵も同じように動くことを考慮しないとうまくいかないこと」「方向転換する瞬間にスキが生まれること」などが、ご意見と重なる部分があるように思いました。
      最も丁字戦法の場合は「主導権を握るべく積極的に仕掛ける戦法」であって「虚を突かれた点をいかに挽回するかを考えていた同盟軍」の場合、状況自体はだいぶ異なりますが。

      もしラップを弁護するとしたら、「敵の後背をつくというのは方便であって、そのまま敵と距離を取りあわよくば戦場を離脱・退却するべきだと考えて進言した」のかもしれません。
      「交戦するか、敵と距離を取るか」だけをその場で選択した、という考えですね。

      ムーアの性格を考慮して「逃げようと提案しても聞かないだろうから、便宜上『敵の後背をつく』と表現した」という解釈です。
      いずれにしても、「ムーアの判断が正しかったか否か」には影響しませんが・・・。

      銀英伝は「後世の歴史家が語っている」という体なので、このような検討ができるのも面白いところですよね。

  2. 前図書頭 より:

    早速のご訂正、ありがとうございます。

    そうですね・・・・
    ムーア提督の性格を考慮してとなると
    艦隊主力を回頭させつつ、任意の分艦隊を急加速させて弧を描くように機動させ、敵の側面を痛撃し、その間に艦隊主力を立て直し、反撃に移行しましょう!
    ・・・とか、どうですかね。
    これなら聞いてくれるかなぁ?